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製造業のプロフェッショナルとして共に創り、共に生きる


月井精密株式会社
代表取締役  名取 磨一



創業から現在に至るまでの変遷について教えてください。

月井精密は、もともと電子顕微鏡メーカーの試作部に勤めていた祖父が独立して1981年に設立した精密機械部品の加工メーカーです。

創業当初は電子顕微鏡の部品を製造するところからスタートし、その技術を応用して医療機器や自動車など様々な分野で部品供給を行なうように。昔からの技術の蓄積だけでなく、先端技術も積極的に取り入れてきたことで、現在では人工衛星や天体望遠鏡などの精密部品の製造も手掛けています。

ただ、父は別の職業に就き月井精密では後継者がいなかったため、祖父は一代で廃業することも覚悟していたようです。一時期は事業を縮小させて祖父が一人で仕事をしていたこともあり、2002年に私が入社した時は75歳の祖父と18歳の私の二人だけの会社でした。

手動で金属を削る加工技術を習得するには数年かかります。これでは若い人材を採用するのは難しいと考え、祖父が研鑽を重ねてきた技術を絶やさないためにもNC(数値制御)工作機械を導入し、ものづくりのデジタル化を積極的に推進してきました。

NC工作機械の導入により業務を標準化したことで若い人たちがどんどん集まってくれるようになり、現在では従業員数は20名にまで増えました。しかも、平均年齢は28歳。ほとんどのスタッフが20代なんです。月井精密では、そういった若いメンバーで人工衛星やロケットなどの精密部品の加工製造を行なっています。



いつ頃からお祖父様である先代の後を継ごうと考えられていましたか?

小さい頃からものづくりは好きでしたが祖父の後を継ごうという意識はなく、高校も工業高校ではなく普通の高校に進学しました。月井精密で働きたいと思うようになったキッカケは、高校生の時、母に勧められて祖父の工場でアルバイトをしたこと。手作業による金属加工の面白さに魅せられて「この会社で働きたい」と思うようになりました。

高校を卒業後、進学はせずに18歳で月井精密に入社。祖父が75歳と高齢だったこともあり、技術を引き継ぐために進学している時間的な余裕がなかったんです。入社した時は祖父と私の二人だけの職場だったので、祖父からマンツーマンで旋盤やフライス盤など手加工の技術を徹底的に教え込まれました。

ただ、この時も「後を継ぐ」というよりは「一人前の技術者になりたい」という想いが強かったように思います。とにかく自分の技術を高めることに没頭していましたね。会社の仕事だけでなく、自分で作った自動車の金属パーツをインターネットで販売してお小遣いを稼いだり(笑)。ドンドンものづくりの仕事に傾倒していきました。

ところが入社して2年後、2004年に大きな転機を迎えることになります。祖父が脳梗塞で倒れてしまったんです。加工だけでなく営業から納品、経理・会計処理など急遽すべての仕事を一人でやらなければならない状況になりました。

20歳の時に何の準備もないまま事業を承継することに。手作業の汎用工作機械が二台あるだけの状態で、ほぼゼロからのスタートでした。



20歳で突然の事業承継……ご苦労も多かったのではないでしょうか。

祖父が倒れてから約半年間はすべての業務を一人で行なっていました。一日中職場に一人、朝から晩までひたすら機械と向き合い、誰も何も教えてくれない日々は正直に言って辛かったですね。ただ、その時に仕事の入口から出口まで一通り全て経験し、どういう流れで仕事が成り立っているのかを体感できたことは本当に勉強になりました。

また、一人で月井精密を背負って立たなければいけなくなった以上、ただ落ち込んでいるわけにもいきません。アナログ汎用工作機械が二台だけしかない状態では事業規模を大きくしていくこともできないし、新しく人材を採用していくことはできないと考え、工場のNC化を決意しました。

先代の祖父は慎重派で設備投資に積極的ではありませんでしたが、私は真逆の考え方で必要な設備に対する投資は惜しみません。規模を拡大するため工場を移転し、NC工作機械を導入してものづくりのデジタル化を推進していく方針を打ち出したんです。



NC化によりどのような成果が生まれましたか?

NC工作機械を導入したことにより、生産と売上の全体的な流れが読めるように。属人的な仕組みから脱却し、24時間操業できる体制を整えたことで業績を大きく伸ばすことができました。また、NC化により暗黙知を数値化し短い修業期間で若い人でも早くに自立できる環境を整えたことで多くの若手スタッフの採用につながっています。

NC化に踏み切ったのは業界内では遅い方でしたが、ウチの強みは途中で妥協せずに全てデジタルに切り替えたことだと思っています。事業承継から15年かけて工場内の機械は完全にNCに切り替えました。社員の平均年齢が28歳と若いのも、女性スタッフが全体の半分を占めているのも、NC化による標準化を徹底してきたからこそです。

また、現在は東京都内に第一から第三工場まで、海外ではタイに工場を一つ、拠点としては計四つの工場を持っているのですが、日本国内の工場では小ロット・多品種の加工を行ない、タイの工場では大量生産を行なうという棲み分けができているのもデジタル化による恩恵ですね。どちらの工場にも同じ機械を導入して、図面のデータを送るだけで量産できる体制を構築しているんです。


事業承継後に直面した一番の危機を教えてください。

業績的に一番つらかったのは2008年のリーマン・ショックのときです。前のめりになってこれから設備投資を積極的にやっていこうとしていたタイミングだったので、非常に厳しい状況でしたね。事業承継後、初めて売上げが落ちる経験をしました。

設備投資をして新しい工作機械を導入しているので、生産能力が増えて業績も順調に右肩上がりで推移していたのですが、リーマン・ショックにより一気に受注が落ち込んだんです。機械を購入した分支払いは増えているのに売上げが落ちていくという苦境に立たされました。

売上げは約30%近く減少する中、毎月の支払いは滞りなくしていかなければなりません。その翌年からは業績を立て直し何とか乗り切ることができましたが、同業他社では売上げが半分以下になったようなところもあり、廃業した会社も少なくありませんでした。

外部環境の変化により商品が売れなくなれば、商品在庫を圧縮するため部品メーカーへの発注がストップします。定期的な注文がある日突然来なくなることもあり得るということです。我々のような部品加工メーカーはリスクを負ってビジネスを行なっているのだということを再認識させられました。


NC化のほかに新しく取り組まれたことはありますか?

リーマン・ショックによる業績低迷を乗り越えた後、あらためてより生産性を向上させるために何ができるのかを考え、工場はNC化により標準化・効率化できたものの、事務仕事の効率を高めることはできないか?と考えるようになりました。

製造業はどこも忙しく、かなりの残業をしているにも関わらず生産性が上がっていないと言われます。理由を突き詰めて考えると、見積り業務がいい加減に行なわれていることが原因だということに行き着いたのです。

見積りとは自社で値決めをする行為であり、利益を出す根幹でありながら迅速かつ正確に行なうことが求められる業務です。見積りには豊富な実務経験が必要となるため、私も祖父から業務を引き継ぐにあたって一番苦労した部分でもあります。当初は適切な価格設定ができず、どんぶり勘定になってしまうことも珍しくありませんでした。

一方で、見積りが全て成約につながるわけでもなく、見積りを行なって成約に至る仕事はだいたい2~3割くらいがいいところでしょう。つまり、残りの7~8割の見積りは無駄な業務を行なっていることになります。

見積り業務を標準化し、誰でも簡単に手間をかけないで正確な見積りを行えるようにすることができれば製造業全体の生産性を向上させることができると考えました。そこで2015年に月井精密とは別に株式会社NVTという新会社を設立し、製造業のためのクラウド見積ソフトTerminal Qをリリースしたのです。


Terminal Qについて詳しく教えてください。

Terminal Qの開発は私自身の業務上の課題感からスタートし、リリースするまで構想4年、開発3年の計7年かかりました。「Q」は「Quotation=見積り」を意味しており、製造業における見積りのターミナルとなる仕組みを作っていこうという想いを込めています。

Terminal Qの基本機能は見積りの自動作成。あらかじめ作業者や工作機械ごとに作業単価を設定しておくことで、図面をデータとして読み込むだけで自動的に見積りを作成することができます。また、FacebookのようなSNSの機能も搭載しており、手軽にTQユーザー全体から取引先や協力会社を検索し、ビジネスパートナーを見つけることも可能です。

Terminal Qを活用することで、見積り業務の簡略化できるだけでなく、従来はメールや電話、Excel、CAD、販売管理ソフトなど複数のツールを使って行なっていた見積り業務を一元管理することができるようになり、さらに蓄積した過去のデータから受失注や営業の分析を行うことができるようになります。

技術力と見積力は企業経営の要であると言っても過言ではありません。最終利益が売上げの5~10%程度であることを考えると、技術力はあっても見積力がなければ利益を生むことはできないのです。Terminal Qはダイレクトで迅速な見積依頼や受取を実現し、見積りに異次元のスピードをもたらすことを可能にするサービスであるため、業務効率化に悩む多くの製造業の方々に利用していただきたいですね。


今後の展望・目標を教えてください。

これからの10~20年で製造業を取り巻く環境は激変していきます。エンジンはモーターに、切削加工は3Dプリンターに切り替わっていくのはまず間違いありません。ものづくりの前提となる概念が大きく変わってしまうんです。

そのため、どの機械が必要でどの機械が不必要になるかを判断していかなければなりません。これから不要になる機械に投資してしまうと、もう回収することはできないからです。今後、製造業の経営者に求められるのは、工場で現場の仕事をすることではなく、情報収集することができるポジションに身を置き、社会や業界の変化を俯瞰して見極めることだと思っています。

月井精密では業界の変化を見据えて精密研磨を行なう工場として新しく第三工場を立ち上げました。3Dプリンターは加工が簡単な分、精度があまり出ないため、精度を上げるための研磨がキーになってくると考えているためです。

月井精密の方は研磨の方向性に経営資源を集中させ、これ以上リスクを取ることは考えていません。一方、NVTのTerminal Qは会員数をどんどん拡大していきたいと思っています。現在でTerminal Qの会員は1000社ほどですが、数年後には日本だけでなく世界に広げていき、会員数を世界中で3万社くらいまで伸ばしていきたいですね。

月井精密の経営理念は「共創・共生」。共に創り、共に生きていくことを大切にしています。この想いはTerminal Qのシステムにも一気通貫していて、月井精密とお付き合いいただいている協力会社や、新会社NVTのTerminal Qの会員も含めて、みんなが繋がったネットワークの中で新しい価値を生み出していきたいと考えています。



<インタビュー情報>

月井精密株式会社
代表取締役  名取 磨一
月井精密株式会社ホームページ http://www.tsinc.jp/
株式会社NVTホームページ https://nvtnet.co.jp/
Terminal Q https://terminal-q.com/

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