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そろばんを通して夢を育てることで世界平和を実現したい

株式会社イシド
代表取締役社長 沼田 紀代美

 創業から現在に至るまでの変遷について教えてください。

創業は1973年、そろばん業界のビジネスが最盛期を迎えて下降し始めた時期に先代社長の石戸がそろばん教室を開塾したのが始まりです。それまでは高価だった電卓が手軽に手に入るようになり、そろばん業界が急激に衰退していった時期でした。
市場規模が縮小する中で、イシドではそろばんを単なる計算道具ではなく能力開発の教具として位置付けてきました。そろばんの持つ本当の価値は能力開発であると再定義したのです。また、右脳の働きが活発な幼児期からスタートした方がより能力開発の効果が見込めるため、幼児教育に主眼を置いて事業を展開してきました。
2000年以降からゆとり教育の弊害が叫ばれ始めたことで転機が訪れます。ちょうど百ます計算が流行りはじめた頃でもあり、読み書きとともに計算能力の必要性に世の中が気づきはじめてきたんです。

また、漠然と指先を動かすことが脳に良いと言われていましたが、脳科学の研究により珠算が右脳の活性化に効果的であることが科学的に証明されたのも後押しになり、そろばんが再度注目されるようになってきました。
その頃には多くのそろばん塾は廃業したり学習塾に転換していたため、そろばん一筋で取り組んできたイシドが確固たるポジションを築くことができたんです。そろばんに特化して唯一無二の存在になったことがイシドの一番の強みです。



沼田社長はどのような経緯でイシドに入社されたのですか?

私は20代の頃、北海道で幼稚園の先生をしていました。子どもたちの教育に関わる仕事は本当に大変でしたが、やり甲斐のある尊い仕事でした。
27歳で結婚を機に北海道から千葉に移り住み、しばらくは専業主婦をしていたのですが、何か社会の役に立つ仕事がしたいと思い、イシドの求人チラシを見て応募したんです。そろばんを通した子どもの能力開発というコンセプトが、自分の能力や好きな分野と一致したことがイシドへの入社を決めたポイントでした。
2000年に入社した当初は経理を担当していたのですが、半年も経たないうちにインターネットでそろばんを学ぶeラーニングの開発担当に抜擢されました。当時インターネットの普及が急速に進んできたこともあり、先代の石戸は、どこにいても「いしど式」のそろばんを習える環境をつくるという壮大な夢を持っていたんです。

私は他の社員よりも少しパソコンが使えるという理由でシステムの開発を任されたので、ベンダーと一緒に開発を進めるにあたり様々なことを独学で勉強しなければなりませんでした。eラーニングのシステムが完成してからも、Webサービスに関するノウハウが全くなかったため、マーケティングやWeb戦略についても一から勉強しましたね。eラーニング事業について社内で判断を下せるのは私しかいなかったので本当に苦労が絶えませんでした。



二代目として社長に就任されるまでを教えてください。

そろばん教室のノウハウをeラーニングに落とし込んでいく業務を経験したことで、イシドがそろばんを教えていることの意義や、そろばん教室のコンテンツの意味など、会社のことを網羅的に把握することができたように思います。日々の業務をこなしながらのシステム開発だったので働き詰めの毎日でしたが、大役を任せていただけたことが私にとっては大きな転機になりました。

eラーニング事業の責任者を務めていく中で主任、課長と段階的に昇進させていただき、今振り返ってみると、2006年に課長に昇進した頃から先代は私に継がせることを考えてくれていたと思います。

先代社長は「60歳で引退する」と宣言していて、私が課長になってからしばらくして「そろそろ会社を任せる」と言われたのですが、正直に言うと半分は冗談だと思っていましたね。ところが、宣言通り60歳で引退することを決められ、2011年に私が社長を拝命することになったんです。
歳をとればとるほど若い人の考え方についていけなくなるため、会社のためにもそろばん業界のためにも早い段階で若い世代に継がなければならないという強い信念をお持ちだったのでしょう。

先代は今もお元気で、会長を務めていただいています。また、そろばん博物館の館長として毎日そろばんに囲まれて暮らしておられます。先代は本当にそろばんが大好きで、私は子どもたちが好きなんです。好きな仕事に対する情熱が共通していたことで、私は後継者としてイシドを継ぐことができたと思っています。



会社を引き継いでからどのような課題に直面されましたか?

2011年に社長に就任した直後は、自分自身のマネジメントスキルが足らないところもあり、社員たちに凄く厳しく接してしまっていました。自分がこれだけ頑張ってきたんだから、社員たちにも同じような努力を求めてしまっていたんです。引き継いだからには次にバトンタッチするまで、絶対に会社を守っていかなければならないと凄い力が入っていたんだと思います。

その反省からマネジメントに対する考え方は大きく変わりました。私たちの商品はそろばん教室の先生たちなんだということに気づくことができたからです。教室の先生たちに楽しくやり甲斐を持って働いていただくことで、生徒さんたちも楽しく学んでもらえる環境を作らなければならないと思うようになりました。厳しく接するだけでなく、働いてくれている先生たちがいかに輝ける場所をつくるのかを意識するようになったんです。

また、代表を交代してからの5年間で売上げと社員数が2倍になったため、それまでは紙に書いたり伝言で事足りていたことが十分に伝わらないことも増えてきました。そのため、社長になって一番大きくテコ入れをしたのは、IT化など業務の仕組み化を進めたことです。

仕組みづくりと併せて石戸珠算学園のブランド統一にも取り組みました。当時30以上のそろばん教室を運営していたのですが、ブランドが統一されていなかったので、それぞれが別個の教室のようになってしまっていたんです。

ロゴや店舗ファサードを統一してブランド整備をしたことで、イシドのそろばん教室の認知度は大きく高まってきました。業務の仕組み化とブランドの統一に取り組んできたことで、今ではフランチャイズも含めて教室数は200以上になり、一教室あたりの生徒数も増えてきています。
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二代目として変えるべきものと変えてはならないと思うものはありますか?

イシドでは「夢を育てる」を経営理念として掲げています。ただのそろばん教室ではなく、そろばん教育を通して、子どもたち、保護者さんたち、そして働いている先生たちの夢を育てるというイシドの理念は、変えてはいけないものだと思っています。

イシドのそろばん教室では、一人ひとりの子どもに向き合う個別対応教育と、小さな成功体験を積み重ねていくスモールステップ方式で、子どもたちに出来なかったことが出来るようになる楽しさを感じてもらうことを重視しています。

「出来た!」を繰り返して学習し、チャレンジして乗り越えることを楽しいと思える経験をした子どもたちは自己肯定感が育ち、色んなことに積極的に挑戦したりリーダーシップがとれるようになってきます。この自己肯定感と何事にも諦めずに挑戦する姿勢が子どもたちの夢を育てるためには必要不可欠なんです。

私は本気でそろばん教育で世界平和を実現したいと思っています。そのためにも、より多くの子どもたちがいしど式を習うことができるよう、教室数はもっと増やしていきたいですね。教室数を増やしていく中で、いしど式の品質を守っていくための仕組みは充実させていかなければならないと思っています。



今後の展望について教えてください。

国内だけでもまだまだ教室数は増やしていきたいですし、世界で見るとまだ3カ国にしか教室がないので、世界中で学びたい時に学びたい人がいしど式を学べる環境をつくっていきたいと考えています。

ただ、教室の数を何店舗にするとか、売上げを何億円にするといった数字的な目標は設定していません。数字ありきになってしまうと、私たちの事業は上手くいかないことが分かっているからです。単純にお金をかけて規模を大きくすればイシドが考えている教育理念を実現できるわけではないというのが難しいところです。一気に拡大していくのではなく、人を育て品質を維持しながらいしど式を広めていかなければならないと思っています。

有り難いことに、海外から自分の国の子どもたちがいしど式を習える環境をつくりたいと言っていただけることが非常に多くなってきています。ビジネスとして利益を目的とするのではなく、自国の子どもたちが楽しく学習して成長するためにいしど式を必要としてくださっているんです。そういった純粋な想いには何としても応えていきたいですね。

そのためにも人材育成が一番の課題になってきます。企業として成長速度を上げていくために、属人化からの脱却を全社的なテーマとして掲げています。やはり、そろばん教室は先生業なので特定の人に頼っている部分が未だに多いんです。これまでの実務経験の中で積み上げられてきた知識やノウハウを集約して、みんなでシェアしていく仕組みに変えていかなければなりません。知識を明文化して誰でも分かる仕組みを構築していくことに現在取り組んでいるところです。

教育業界は今、大きな変化が求められています。大学入試改革の影響もあり、知識偏重主義から思考力や判断力、表現力など創造性のある能力の養成が求められるようになってきているからです。業界全体でIOTやアクティブラーニングなど色んな試みが始まってきており、教育というものの考え方自体が大きく変わってくると思います。

私は教育=人格形成だと思っていて、どんなに機械化が進んだとしても教育の仕事は唯一人間にしかできない仕事だとだと考えています。未来を担う子どもたちの人格を育む企業としてイシドはこれからも挑戦をし続けていくつもりです。




<インタビュー情報>
株式会社イシド
代表取締役社長 沼田 紀代美
会社ホームページ http://www.soroban.co.jp/

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