Original

成長無くして存続無し 100年以上続く企業を目指す

新灯印刷株式会社
代表取締役 後尾 和男


創業から現在に至るまでの変遷について教えてください。

新灯印刷の創業は1947年、会社としての設立は1949年になります。もともと私の祖父は神保町で新聞販売店をやっていたんです。その販売店でチラシなど広告の仕事を受注することが増えてきたため、そのチラシ印刷を事業として行うため祖母の弟、私の大叔父が新灯印刷を立ち上げたのが始まりです。

創業者である大叔父の後、1998年に長くナンバー2を務めていた私の父が二代目となり、父が亡くなったことを契機に2010年から私が三代目として社長に就任しました。

事業内容としては、創業期に鉛でできた活字にインクを付けて紙に転写する活版印刷から始まり、時代の流れとともに電算写植、デスクトップパブリッシングと移行してきました。今から15~16年前ぐらいにはパソコン上で簡単に本の体裁が作れるようになり、それに伴って印刷の工程もフィルムがなくなるなど省力化してきています。

新灯印刷では創業初期の頃から、業界ではページもの印刷と呼ばれる本の印刷を主に取り扱ってきました。現在は印刷業をメインとして製本加工、企画プロデュース、それらを繋ぐ物流事業など出版全体に関わるような事業展開をしています。


新灯印刷の強みは何ですか?

私が入社した2002年頃から出版事業を急激に伸ばしてきたのですが、その頃の強みは何といってもスピードでした。

立地的に東京の真ん中あたりに位置する神楽坂に会社と工場を構えているので、どこからでもアクセスが良く、素早くお客様の要望にお応えできたことが一つ。そして、単独で全ての工程を完結させるのではなく、自社でできない部分は適宜アウトソーシングすることで、原稿をもらって翌日には校正が出せるようなスピード感が強みでした。

当時は価格ではなくスピードやクオリティが重視されていた時代だったんです。新灯印刷は圧倒的な早さで印刷することができると口コミで評判が広がってきたことで着実に成長してきました。

ただ、ある時から印刷までの工程が簡略化されてきたことでスピードの面では周りと差がなくなってきてしまいます。また、クオリティの面でもそこまで差別化することはできません。スピード・クオリティで差がなくなってきたことで、唯一差が生じるのが価格なんです。今から7~8年前頃から業界的にハッキリと価格競争の流れになり、安さをウリにした印刷会社が伸びていったように思います。

出版不況と言われ本が売れる時代ではなくなってきたことで、印刷業界は安くてスピードが早く、クオリティも高いのが当たり前になってきました。安い・早い・クオリティが飽和状態になったことで、次に求められることは何かと考え、たどり着いたのが出版社に企画を提案できる印刷会社になること。出版社の困りごとに応える形で新灯印刷の強みを見出してきました。


後尾社長が新灯印刷に入社された経緯を教えてください。

実は新灯印刷に入社して一度辞めたことがあるんです。当時は大叔父が社長で父が専務を務めていたのですが、仕事に対する考え方で専務だった父と折り合いがつかず、入社して3年で会社を飛び出してしまいました。

それから様々な仕事を経験してきましたが、転機となったのが教育商材を販売する出版社で営業を徹底的に鍛えられたこと。飛び込み営業の仕事で、どうしたらお客様に商品を買ってもらえるか営業の基本を叩き込まれたんです。

最初は知識も乏しく営業成績も振るわなかったのですが、商品や市場を研究し自信を持って営業するようになってから結果を出せるようになりました。新人戦で全国3位になったこともあるんですよ。その出版社では約3年間働かせてもらいました。

その後、転職した鋼材卸売の会社でも営業職としてキャリアを重ねることになります。教育系とは全く異なる鋼材の営業でしたが、前職で鍛えられた経験を活かして、実績を出すことができたのは大きな自信になりましたね。

新灯印刷に戻ってくるキッカケとなったのが、2002年に父から「会社が危機的な状況だから戻ってこい」と声をかけられたことです。その時は父とのわだかまりも解消していたので、それまでのキャリアで培ってきた営業のスキルを活かして新灯印刷の力になりたいと思い、戻る決心をしました。


入社されてからのお仕事と、三代目として社長に就任された経緯を教えてください。

新灯印刷に入社してからも、営業職として新規開拓営業に取り組んできました。現在もお取り引きさせていただいている新規のお客様はほとんど全て私が担当してきたんです。社長になる以前からお客様と直接的な接点を持てたことは私にとって大きな財産になっています。

三代目として会社を引き継いだのは2010年。祖父の後、二代目社長を努めていた父が癌で亡くなったため、私が後を引き継ぐこととなりました。社長に就任した時には営業マン時代からのお客様に助けていただいたことも多く、その点は本当に有り難かったですね。

父が亡くなる半年前に癌を告知されていて末期だったので、そうなった時には後を継ぐ覚悟はできていたのですが、ずっと営業畑一筋で歩んできていたため、経営者として何をしたらいいのか全くといっていいほど分かっていませんでした。

創業者や二代目から影響を受けられたことはありますか?

会社の数字に関わることなど経営者として必要なことは創業者の仲井前会長から教えていただきました。

もの凄く数字に明るい人で、人脈も幅広く、東京都印刷工業組合の新宿支部の立ち上げメンバーだったりと、業界でも様々な方と繋がりを築いてこられた方でしたね。記憶力もすごく良い方で、何年・何月・何日に何があったかなど正確に記憶されているんです。

仲井前会長の存在が新灯印刷を支えてきたといっても過言ではありません。バブル崩壊やリーマンショックの時に会社に何も被害がなかったのは、前会長の経営者としての手腕だったと思っています。会社を継続させていくことの大切さは前会長から教わりました。

一方、二代目の父は前会長とは全くタイプの異なる徹底したナンバー2気質の人でした。創業期から番頭的な立場で一番長く会社を支えてきており、印刷の現場のことは全て父が仕切っていましたが、正直に言って経営者に向いているタイプではなかったと思います。

私は色々と改革していきたいタイプなのですが、先代の父は保守的な考え方をする人だったため、一営業マンとして働いていた時は仕事に対する考え方の違いでぶつかったこともありました。

ただ、仕事の質にはものすごく拘りを持っている人で、父が大切にしてきた本質的な部分があったからこそ新灯印刷は継続してこれたのだと父が亡くなった後に気付かされました。

現在、私は経営者として様々な新しいことへのチャレンジをしていますが、新灯印刷の本質の部分は失ってはいけないということを先代の父の姿から学ばせてもらったように思います。


社長に就任してから取り組まれたことを教えてください。

社長に就任して2年目に「成長なくして存続なし 100年以上続く企業を目指す!」という企業理念を制定しました。新灯印刷は創業70年以上の歴史のある会社です。継いだからには絶対にこの会社を潰すわけにはいかないという強いプレッシャーを感じています。そういう意識から自然と企業理念のフレーズが浮かびました。

企業理念はビジョンであると同時に社員に対する戒めの言葉でもあります。例えば少し汚れてしまった印刷物が現場から上がってきたとします。それを刷り直すか、ごまかすか判断を迫られた場合、100年以上続く企業だったら迷わず刷り直す方を選択しますよね。些細な問題とはいえ目の前の仕事をごまかしているようでは、100年以上続く企業にはなれません。企業理念に照らして自分たちの仕事を考えてほしいという思いを込めています。

そして、企業理念を支える「文化の継承」、「正直で真面目で明るい職場」、「Give-Give-Takeの精神」という3つの企業指針を定めました。

特に私は文化の継承をすごく大事にしたいと思っています。印刷の仕事は次世代へ文化の継承をしていくための社会的意義の非常に大きい仕事です。電子書籍ではなく紙媒体の本という文化を残していく仕事として誇り高くプロ意識を持って取り組んでいきたいという思いを込めてこの指針を策定しました。



事業面で変えられたことはありますか?

私が会社を引き継いだ当時は、電子書籍やオンデマンド印刷などの登場により業界自体が転換期を迎えた時代でもありました。変化していく社会の中で、先々代の時代から何も変えていない我々のような中堅規模の印刷会社が真っ先にダメになるだろうという危機感を強く抱いたんです。

実際に印刷業としての売上げはその頃をピークに徐々に落ち込んできています。そんな状況を打開するために、印刷だけでなく出版企画プロデュースや製本、物流などの事業へ進出することを決めました。

最初に設立したのが「スタックアップ」という企画プロデュースの会社。出版社に企画を提案するプロデュース業を始めたんです。新灯グループ内では、新規印刷の突破口となる営業部隊としての位置づけで、現に新灯印刷に繫がる新規顧客として年間3~4社の実績を上げています。

その他にも、物流会社「ストレート」、製本会社「SS製本」、カラー印刷を担う「テクノアート」、出版社「玄文社」などをグループ企業とし、本の企画・製造・販売まで一貫して関わる新灯グループとして事業を展開。印刷業単体ではピーク時よりも売上げは落ちていますが、グループ全体としては1.5倍以上の売上規模に成長しています。


今後の展望を教えてください。

現在、新灯印刷では主にオフセット印刷という印刷方法を取り扱っているのですが、インクジェットプリンターの質が向上してきたことで時代は確実にデジタル印刷にシフトしていっているのを感じています。

オフセット印刷も昔に比べれば随分かかる時間が短くなりましたが、デジタル印刷はそれを遥かに凌駕する簡便性・スピードを実現しており、コスト的にもスピード的にもデジタル印刷が主流になる時代がすぐそこまで来ているんです。

100年以上続く企業を目指している会社として、そういった時代の変化に柔軟に対応していかなければならないと思っています。古き良き文化を残しつつ新しいことにも取り組んでいく会社でなければ継続していくことはできません。

時代の変化に対して、今の事業をいかにマッチングさせてサービスとして展開できるかがポイントになってくるので、今まさにその構想を組み立てているところです。

ただ、例えばデジタル印刷機を取り入れて新しい印刷サービスを始めたとしても、新灯のブランド、クオリティへの拘りといった本質的な部分は絶対に崩してはいけないと考えています。どれだけ新しい技術が登場したとしても最終的にはそれを運用する人の力が大切なので、人の力とサービスの部分で新灯のブランドを守りながら、チャレンジを続けていきたいですね。




<インタビュー情報>
新灯印刷株式会社
代表取締役 後尾 和男
会社ホームページ http://shinto-printing.co.jp/index.html


この記事を読まれた方が他に読んでいる記事