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伝統的な日本の食文化を継承し発展させる

紀尾井町 福田家
代表取締役 福田 貴之


 創業から現在に至るまでの変遷について教えてください。

初代の福田マチが昭和14年(1939年)に虎ノ門で割烹旅館として福田家を創業。北大路魯山人とお付き合いがあり、創業当初から魯山人にご指導をいただきながら、おもてなしの精神を追求してきました。魯山人が宿泊された際に北鎌倉の蔵で制作した書画・骨董などを納めていただき、福田家では魯山人の工芸品を約2000点所有しています。

昭和20年の東京大空襲で虎ノ門の店が焼失してしまったことで、虎ノ門から紀尾井町の地に移転。明治政府で皇太后大夫を務めた香川敬三伯爵の邸宅の一部を買い取って昭和21年から福田家を再開し、昭和44年には別館ふくでんを開業しました。

福田家は創業当初から政財界や文化人の方々にご利用いただいてきました。川端康成や湯川秀樹、イサム・ノグチなど日本を代表する文化人の方々に定宿としていただき、囲碁や将棋の名人戦を開催していただいたこともあるんです。

また、紀尾井町に移転してからは霞が関に近い土地柄から官庁や政財界の方々に数多くご利用いただき、歴代首相をはじめ海外からもアメリカのジョージ・H・W・ブッシュ大統領(副大統領時代)やフランスのミッテラン大統領、デンマーク女王ご夫妻などの来賓をお迎えさせていただいたこともありました。

1995年に古い屋敷を取り壊して紀尾井町福田家ビルを竣工し、料亭「紀尾井町 福田家」を開業して旅館から料亭へと業態を転換。2016年からは別館ふくでんの場所に福田家を移転して、「美」と「味」の調和を大切にした魯山人の想いを引き継ぐ老舗料亭としてお客様をお迎えさせていただいています。



時代の変化に合わせて変わってきたことはありますか?

1998年に公務員の過剰接待が社会的な問題になったことで、官公庁のお客様が随分と減ってしまいました。また、ほぼ同じ頃に政界での利用も縮小傾向になり、それまで大きな得意先だった2つの客層が激減してしまったのです。それからは企業の方々にご利用いただく比重が増えています。2008年にミシュランガイドの二つ星を頂いて今日に至るまで二つ星の評価を継続しており、そういった評価を見てご来店いただく方も増えてきていますね。

以前は広報やプロモーション活動はどちらかというと避けていました。自社を宣伝しないことが美徳とされていた時代だったのです。しかし、情報化が進んだ現代ではそういった姿勢では生き残っていくことはできません。時代の変化に対応しなければならないと考え、店舗運営の仕方を少しずつ変えてきています。

先々代の祖父は「継続は文化なり」という言葉を格言にしていました。「継続は力なり」という諺の「力」を超えて、継続していくことで「文化」を形成していくことができるという想いが込められている言葉です。当店福田家が営業を続けていくことによって、仕入先の魚屋さんや肉屋さん、八百屋さん、漆器を作る職人さんなどの文化を守っていくことに繋がっていると思っています。
少しずつお客様の層が変わり、営業の仕方も変化させてきていますが、継続することによって日本の食文化を下支えする一翼を担っているという自負はありますね。

福田家では「伝統的な日本の食文化を継承し発展させる」という経営理念を掲げています。先代の父の時代までは「食文化の維持・継承」を理念としてきたのですが、日々変化の激しい今日において、現状を維持するだけでは徐々に衰退していってしまうと考え、私の代で「維持・継承」から「継承・発展」に変更しました。

新しい手法や食材などもどんどん取り入れるようにしており、半年に一回くらいの頻度で社員たちが選んだ他の割烹に食事に出かけて、新しい調理方法やサービスの良い所などを勉強させてもらっています。社会から必要とされる企業でなければ継続していくことはできません。新しいことにチャレンジし続けながら、日本の食文化の継承と発展に貢献していきたいと考えています。


 福田社長が福田家に入社された経緯を教えてください。

大学生を卒業してから福田家ではなく別の会社に就職して7年弱働いていました。福田家に入社するきっかけとなったのは先代の父が60歳を迎えたことです。2007年、ちょうど結婚するタイミングでもあったので、前職に区切りをつけて福田家に戻ってくることになりました。

両親からは会社を継ぐことについてあまり言われてはなかったのですが、子どもの頃から両親が福田家で働いている姿を見て育ってきましたし、長男だったのでいつかは福田家に戻って後を継がなければならないと漠然とは思っていたのです。

母は今も女将として現役で働き続けています。両親が守り続けてきてくれた福田家を私の代で終わらせてはいけないという思いはありました。

入社してからは総務部長として人事・総務の仕事を担当することになり、会社全体を見渡せる仕事に携わることができました。数字で会社の動きを理解することができますし、全体を俯瞰して見ることができたのは良い経験になりました。

私が入社した時に、父が社長を、祖父が会長を務めていたのですが、経営の手法に関することは父から、福田家の事業に対する想いは祖父から学ばせてもらいました。祖父は非常に想いが強い人だったのに対し、父は合理的な考え方をする人だったので、全く違うタイプの二人から影響を受けて徐々に自分なりの経営者像を作り上げていきましたね。



四代目社長に就任されてからはどのようなことに取り組まれてきましたか?

大きなターニングポイントとしては2013年に祖父が亡くなったことです。相続の問題などもありましたが、父と今後の福田家のことで相談したところ私に全て任せると言ってくれたので、2016年に代表を交代して四代目社長に就任することになりました。
社長に就任してからまず取り組んだのが組織の改善です。昔ながらのやり方で効率が悪かった部分を新しいやり方に切り替えていきました。

具体的には、それまでは手書きで予約を受けていたのを、システム導入していつ何処からでも予約状況を確認できる仕組みを導入したり、誰かが休んでも代わりができるように仕事をシェアリングしたりする取り組みを進めています。非常に悲しい出来事だったのですが、少し前にお客様をお出迎えする玄関番を務めていた社員が突然亡くなってしまうということがありました。他に変わりが利かない属人的な仕事の仕組みではそういった時に立ち行かなくなってしまいます。万が一の時に困らないよう仕事の共有化に取り組んでいます。

ただ、トップダウンで進めてしまうとスタッフに気持ちよく動いてもらうことはできないので、いろいろと話し合って少しずつ改革を進めてきました。
私が代表に就任してからは定例会議や個人面談の機会を設けて、より社内で活発なコミュニケーションを取られるよう、各個人が意見を出してもらいやすい環境づくりを心がけています。お客様と直接触れ合うスタッフ一人ひとりが気持ちよく働いてもらうことが大切だと考えているためです。

福田家の長い歴史の中で、業務が縦割りになり、業務効率化できる部分もあると感じたため、社員たちからの意見を採り入れながら改善していきたいと思っています。


その一方で、変えずに守り続けていかなければならないと思われることはありますか?

非効率的な会社の仕組みは変えていかなければなりませんが、お客様に接する際の考え方の軸は変えてはいけない部分です。特に「お客様の話の邪魔をしない」という基本的なサービスの姿勢は守り続けています。

当店福田家に来られる多くのお客様は、お招きになる正客様との会話が目的で来店される場合が多く、その傍らに食事をされるという考え方をしているので、お客様がお話をされている間は絶対に注文をお伺いしたり料理の説明をしたりしないようにしているのです。

ただ、昨今、外国人の方など料理を楽しみに来店されるお客様に対しては、タイミングを見計らって料理の説明をさせていただいたり、適宜喜んでいただけるようなサービスを心がけています。そういったお客様であれば、料理長がご挨拶に伺わせていただくと非常に喜んでいただけます。料理長と一緒に撮った写真をインスタグラムにアップしていただくこともありますね。

当店福田家が大切にしている軸は、お客様が何を求めて福田家に来ていただいているのかを第一義として考え、お客様の状況に合わせて料理やサービスを提供させていただくということです。お客様の満足度を向上させることが、福田家が築き上げてきた文化を守っていくことに繋がると考えているため、その根底にある考え方は変えてはいけないと思っています。



今後のビジョンを教えてください。

日本料理を志す若者は年々減っていて、調理師学校でも和食を選択する生徒は全体の1割と聞いているので、その状況は変えていきたいですね。

そのため、日本料理の魅力を様々な方法で発信していきたいと考えています。特に今後はおそらく外国人の労働力も必要になってくると思うので、そのような方々も含めて教育できる環境と活躍できる場を整えていきたいと思っています。
魚の鱗を取り、身を一から下すような本格的な日本料理の仕事ができるお店は限られているので、当店福田家のように日本料理の食文化を継承してきた料亭には、将来の料理人を育てる使命があると思っているのです。

福田家で修行をされた方に、世界の注目を集めるような料理人として成長していっていただくことで、日本料理を志す若者を増やしていくことができるのではないかと考えています。
「美」と「調和」を大切にする魯山人の想いを引き継ぎ、日本料理の文化を継承し発展させていく福田家のブランドを活かしながら、新しいことにも積極的にチャレンジしていきたいですね。





<インタビュー情報>
紀尾井町 福田家
代表取締役 福田 貴之
会社ホームページ http://www.kioicho-fukudaya.jp/

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